【 夏祭りの夜 】
(c)2000 A.Hiramatsu
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夏休み中の出来事である。
僕の名は「正男」。高校2年生だ。普段は東京に住んでいるのだが、今、山あいの田舎町の、従兄弟の「耕作」の家に泊りがけで遊びに来ている。
本当に、ここは山の中だ。どこを向いても山である。が、かなり深い山の中であるにもかかわらず意外に平坦地が多く、稲作も盛んだ。北と東から川が流れてきて、それがここで合流して南に流れ、いずれは太平洋に出るのだが、その合流点であるここはちょっとした盆地になっているためだ。川に添って昔からの街道があり、それは今では国道になっているが、北の街道と東の街道の分岐点となるこの町は宿場町としてもそれなりに栄えてきたらしい。
この町は、僕の父のふるさとなのだ。父は若い頃この町から東京に出て、東京で母と知りあって結婚し、そのまま東京の人となった。僕は、小さいころから何度も親に連れられてこの耕作の家、正確に言うと父の兄の家に泊っている。でも、今回は僕一人でここに来た。
「遊びに来ている」といってもあまり晴れ晴れした気分ではない。どちらかというと「傷心旅行」といった気分なのだが。
僕には、好きな女の子がいた。高校の、僕と同じ図書委員の子だ。一緒に図書委員の仕事をしていると、なんか妙に息が合った。お互い読書好きだから話題に事欠くこともなかった。僕はその子が大好きだった。その子も僕が好きに違いない、と信じて疑わなかった。
で、夏休みに突入する直前、僕は思い切ってその子をデートに誘ってみた。・・・結果は無残だった。もうその子にはずっと前から彼氏がいるんだそうだ。僕はあくまでも「単なる図書委員の同僚」としか思われていなかったわけだ。
その日から数日の間、ぼくは魂が抜けたようだった。赤信号に気付かず道路を渡ろうとして思いっきりクラクションを鳴らされたりとか、雨が降りだしたのにも気付かず傘もささずにボーッとしながら歩いたりとかした。
しばらくしてある程度心の平静を取り戻した僕は、「せっかくの夏休みだ、しばらく学校での出来事は忘れて、なんかウサ晴らしをしなくちゃな。」と思った。そこで、この町のことを思い出した。
耕作は僕の1つ年上だ。僕はここに来るといつも、耕作と一緒に川で魚を釣ったり、カヌーで川下りしたりした。とにかくアウトドア遊びには事欠かない場所だ。ここで童心に帰って耕作と遊んでいれば、いい気晴らしになるだろうと思っていた。
ところが、またしても僕は打ちのめされた。耕作に彼女ができていた。耕作の彼女は「早苗」だ。早苗は耕作の家から数軒離れた家の子で、ようするに耕作とは幼馴染みなわけだ。僕も早苗とは小さい頃からの顔見知りである。前回来たときには特にそんなそぶりも見せなかったのだが、今回来て驚いたことに、耕作と早苗はほとんど近所じゅうに「公認」されたカップルとなっていた。
僕は別に早苗に特別な感情を抱いていたわけではないが、なんとなくねたましい。
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